『王様からのおくりもの』

今年の2月28日、人吉市立西瀬小学校の4年生が『王様からのおくりもの』
というミュージカルを同校の体育館で上演しました。
2学期から総合的学習の時間を使って自分たちで作り上げた作品です。
私は本番前2週間だけ練習をみせてもらいました。
これはそのときのレポートです。


 2002年8月某日

  西瀬小学校4年生の担任のお二人に会う。
  音楽の時間に『サウンドオブミュージック』のビデオを見せたら、
  子供たちが「ミュージカルをやりたい!」と言い出したそうだ。
  取り組むうえで、スタッフをやる子たちにスタッフの楽しさ、喜びを
  伝えて欲しい、とのことだった。
  その日は、私が思うことをしゃべり、それをホームビデオに撮って
  帰られた。
  本番は2月28日。ちょうどその頃は人吉に帰っている予定だったので
  手伝わせてもらうことにした。


 2003年2月18日 2校時

  初めて練習を見せてもらう日。
  まず台本をもらう。タイトルは『王様からのおくりもの』
  話し合いで「伝えよう!友達のすばらしさ」にテーマを決め、
  それに沿って取材をし、台本係の子たちで書き上げたそうだ。

  一応流れはできあがっているということだったので、とりあえず
  通して見せてもらうことにした。

  上演時間40分弱。はっきり言って完成していた。
  先生も子供たちもミュージカルを見たことがないといっていた。
  少ない情報と想像力でここまでやれるものなのか...。


 同日 5校時

  初めから場面ごとに止めながら、「こうすればもっとよくなるかも」
  と思うことを言っていく。

  1)生演奏でオープニング曲を歌うところから始まる。
    「いかにもミュージカル~!」という始まり方なので、
    せっかくだから前奏に合わせて緞帳を開けることを提案。

  2)歌の後の暗転が長く感じるので後奏を弾くことを提案。

  3)場面が多く暗転が多いので、短い場面はステージ下を使って、
    場面変わりをスムーズにすることを提案。

  4)正面を切らず、相手役を見てセリフを言うようアドバイス。

  全体の3分の1くらいまで進んだ。


 2月19日 1・2校時

  昨日のとこまでの復習をする。ほぼできていたので先に進む。

  1)どの場面もステージ全体を使っていたので、家の中の場面などは
    エリアを決めて使うことを提案。

  2)小道具の暗転スタンバイにこだわらず、役者が持って出てくるなど
    して暗転を減らすことを提案。

  全体の2分の1くらいまで進んだ。

  
 同日 5校時

  出演者、舞台監督、大道具・小道具、音楽、照明、プロジェクターの
  各班でミーティング。質問、新しいアイデアがかなり出た。

  
 同日 6校時

  4校時の続きをやる。

  1)各場面の主役がなるべくセンターになるように立ち位置を決める。

  2)カーテンコールは3列に並ぶので、後ろの子の顔が見えるように
    最前列はステージ下にしてあったが、照明があまりあたらないので
    3列ともステージに上がることを提案。
    「全員の顔が見えるようにします」と約束した。私の宿題。


 2月20日 5・6校時

  まず一回通してみる。通したあと、気がついたことを言って、うまく
  いかなかったところを練習する。いわゆる「ダメ出し」「小返し」だ。
  本格的~。

  1)オープニング曲の間奏で4人が順番に前に出てセリフを言うの
    だが、間奏の間に言い終わらない。
    自分の前の人が言い終わったらすぐしゃべり出せるように
    「逆算して動く」ようにアドバイス。
    ばっちりできるようになった。

  2)動きと効果音のタイミングがなかなか合わない。効果音の係が
    どうやらステージが見えにくい位置でやっているようだ。
    場所と配置を改良して、うまくいくようになった。

  3)4種類ある背景の絵をカーテンのように細工した布でかくして
    開閉したらどうかと提案。
    布、リング、棒など家にあるもので材料を集めるように頼む。


 2月21日 1・2・3校時

  小返しの続き。子供たちから質問がくるようになったので「どこから
  どこまで何のためにやるか」を伝えるよう心がける。

  1)主人公が家来に捕まるところで、ただもみ合うのではなく、
    戦ってるように見える動きをつけてみる。「たちまわり」。

  2)長いナレーションが入るシーンを暗転じゃなく、主人公をスポット
    で残すことにしてみる。
    セリフなしで舞台に立ってるのは、意外と大変なのだが、
    「どういう気持ちでいたらいいのか」を自分で考えてくれたので、
    結構絵になった。

  3)カーテンコールの動きをつける。動きはわりとスムーズにできた。
    問題は、歌いながら動くと声が小さくなること。

  小返しが最後までいったので、通してみる。
  通してみて各班でミーティングを行い、いくつかの反省点と質問が出た。


 2月24日 

  学校行事で体育館にプロのバレエ団がやってくるため練習はお休み。
  私は勉強のため舞台の設営を見学させてもらった。
  本番も見せてもらったが、子供たちはプロの音響・照明などを興味深く
  見ていたようだ。


 2月25日 4校時

  6台使っていた照明(リフレクター投光器)を左右3台ずつに分けて
  みる。分けた方が変な影が出ないはず。
  久しぶりなので一回通してみる。

  1)ステージ横に出入りするときの明かりもれが気になるという意見が
    あったので、ついたてを立ててみる。更に、ステージにもれないよ
    うに斜めに立てることを子供たちが発案。すごい!

  全体は明るくなったが、ステージ下の場面が暗いとの意見が出る。
  給食時間と昼休みを使って一人でちょっと研究してみた。
  結果、左右に2台ずつ、センターに1台、1台は演奏者に当てることに。
  照明チームは3箇所に別れた上に、きっかけが増えて結構大変かも。


 2月26日 5・6校時

  給食時間と昼休みを使ってステージにビニールテープでいくつか印を
  つける。「ばみり」という作業。
  先生から背景の絵について、カーテンを作るには時間が足りないので、
  子供が持って出たらどうでしょう、という意見が出る。
  持って出る、というのは私には思いつかなかった。単純だけど一番いい
  方法だ、と目からウロコ。
  材料を集めてくれた子たちには悪かったな...。


  1)背景の出し入れの練習。畳んで運びステージで開くとスムーズに
    いく。開いてみたら違う絵だった、開いてみたら逆さまだった、
    ということがないように裏に出す順番とどっちが上かを書くよう
    に提案。

  2)主人公が本の世界に吸い込まれるシーンで、照明の前で厚紙に
    いくつか穴を開けたものを回してみた。予想以上の効果で、
    発案した私もびっくり。
    役者にもくるくる回る動きをつけてより効果的に。
    
  3)みんな自主的に「ばみり」を活用してくれている。お互いに
    「この線から出たらダメ」と注意しあったり。舞台のバランスが
    よくなった。

  4)戦いのシーンに流す音楽を探してきてくれたので、みんなで聞き
    くらべて選んだ。

  5)ステージの国旗と校章をカーテン用に持ち寄った布で隠すことに。
    透け具合、壁の色とのバランスなど、みんな結構こだわる。

  6)カーテンコールで出てくるのが遅れるので、2列に並ばせてみる。
    焦ると前に行きたがるが、列で出た方が断然早いことが分かった。


 2月27日 5・6校時

  1)ウォーミングアップで、ジャンプしながら声を出してみる。
    動きながら声を出すと複式呼吸になり、自然に大きないい声が出る。

  2)明日の開場時の流れを確認。子供たちは、声が後ろまで聞こえるか
    心配なので開場時から静かにしていて欲しいという意見。開演直前
    までざわついてた方が、本番中静かにしてくれるかも、と提案。

  最後の通し。みんな緊張しているらしく、今までにない凡ミスが。
  明日の課題はいかに緊張をほぐすかだ。


 2月28日 いよいよ当日!!

  午前中の「さざなみ文化祭」で各学年、歌や合奏を発表した。
  実は今回のミュージカル、文化祭の4年生の発表ではないのだ。
  上演時間40分なので文化祭でやるのは無理ということで、別枠で
  ミュージカルをやることになったらしい。学校の粋なはからいに感心!

  文化祭での4年生の発表は、すごかった!ミュージカルへの取り組みを
  プロジェクターで紹介し、いいシーンの練習風景をちょこっとだけ見せて
  『いよいよ本日午後、上演!入場無料!』という宣伝で締めくくった。
  他の学年の父兄は訳が分からずポカンとしていた。

  文化祭が終わり、みんながてきぱきと準備をしたため、もう一度通しを
  する時間がとれた。
  昨日よりうまくいったため、緊張していたみんなの顔が明るさを取り戻
  した。

  
 14時10分 開場

  「劇団あおぞら」と名づけていた彼らにぴったりだと思い私が持って
  きた、ブルーハーツの『青空』という曲を開場時に流してくれた。
  客席が落ち着いたところで舞台監督が音楽係に合図、曲がフェードアウト
  し、開場が暗くなり、スポットが司会者を照らす。
  プロの芝居か?と思うようなスムーズな始まり方だった。すべて子供たち
  で行っているのだ。

  司会者の挨拶とお願いが終わり、音楽と共に幕が開いた。

  声もよく聞こえたし、大きなミスもなく、素晴らしい舞台だった。

  本番2日前に風邪をひき、前日まで声が出なかった主役の子が必死で
  声をふりしぼっていたこと。
  伴奏のトラブルにひるむことなく、エンディングを歌いきったこと。
  マイクが入らなかったけど、司会者が地声で最後の挨拶をしたこと。
  お客さんを送り出すときのみんなの満足感あふれる笑顔。
  たくさんの感動を子供たちにもらった。


4年生がここまでやれるのか?と感心しましたが、先生たちのお話だと、
やはり徐々に意識が高まっていったそうです。
試行錯誤しながらも自分たちで作り上げた子供たちと、必要以上の手出しを
せず子供たちを見守っていた先生方に、たくさんのことを学ばせていただき
ました。
また一緒に舞台を作れたらいいな、と心から願っています!


  


      


    

   


     

  
  

  

  


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